「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」改正案

の廃案・否決を求める要請書

                                                     2011年3月

大 阪 府 議 会 各 会 派 御中

自由法曹団 大阪支部

     弁護士  伊  賀    興  一

     弁護士  横  山   精  一

事務局長   弁護士  小  林   徹  也

申入れの趣旨

本年2月府議会定例会に上程された「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」改正案に反対し、廃案・否決していただきたくよう求める。

申入れの理由

1 はじめに ――――今回の改正の内容

大阪府は、「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」の改正案を本年2月府議会に提出しており、本年10月1日の施行を目指している。

その改正内容は、①これまで興信所・探偵業者のみであった同条例の規制対象を、「土地調査等を行う者」にも拡大し、②以下の各行為を禁止し、③違反者には勧告・公表の制裁や、資料提出命令を課すことができるというである。

【条例改正により、「土地調査等を行う者」が禁止される行為】

土地を調査する際、「同和地区があるかないか」を調査することを禁止する

・その土地に「同和地区があるかないか」を報告することを禁止する

同和地区の所在地の一覧表等提供を禁止する

特定の場所又は地域が同和地区にあることの教示を禁止する

 今回の条例改正案は、不動産業者だけでなく弁護士や司法書士など法律家に対しても多大な行為規制を課し、業務上必要な土地調査に重大な支障を生じるものであるから、強い反対の意思を表明する。

また、そもそも本条例は1985年に制定されたものであるが、部落差別をめぐる状況は当時と比べて大きく変化・改善している。同和対策事業特別措置法(同対法)の流れをくむ地域改善対策財政特別措置法(地対財特法)が2002年に失効したことにより同和行政は一般行政に移行され、行政が関係者や関係地域を特定する行為自体が差別解消の障害であるとの認識に到達している。これは市民的な了解点となっているというべきである。

もはや「同和行政」という用語自体が国政レベルでは廃止されている。そして、同和行政の対象地域を表す「同和地区」という用語も、もはや法律上の根拠がないものとなっている。

本条例改正により規制を強化すべきではなく、むしろ本条例は廃止されるべきである。 

この時期に敢えて本条例を改正強化することは、部落問題の解消の方向に逆行するものである。

大阪府はかねてから同和問題に関する政府方針に反し、「部落問題は未だ深刻」などという見解を表明し、平成18年には旧同和地区居住児童生徒の学力は他の地域に比べて低い」などという「実態把握結果」を公表するなど、部落問題解消に逆行する行為を重ねて来ていることは重大である。

この条例改正案が成立すれば、同和行政継続を求める部落解放同盟の要求を無批判に受け入れ、「差別事象」の「確認・糾弾」や行政介入を新たに招きかねない重大な危険性がある。

以下に、本条例の問題点を指摘し、われわれが条例改正に反対する理由を述べる。

2 本条例案の問題点(1)―――本来適正な業務を規制し関係者にも重大な影響

 本条例改正は、新たに「土地調査等を行う者」、すなわち条例案の定義によれば、「府の区域内において、土地の取引に関わり、営業行為に関連して土地に関する事項を調査し、報告し、又は教示する事業者」の行為を規制するものである。

 この定義によれば、不動産売買を行う業者のみならず、弁護士・司法書士・公認会計士などが不動産の財産的価値を調査評価したり、破産管財人として不動産の売却処分について調査検討したり、裁判所の競売手続に関与する場合なども、「土地取引等を行う」の定義に含まれることになり、規制対象となってしまう。

 そして、当該土地が「かつて行政により同和地区と指定されていたか否か」という過去の客観的事実・歴史的事実を報告書に記載したり、口頭で関係者・関係機関に述べたりするだけで、条例違反となってしまうのである。

 不動産業者や法律資格者が土地の調査を行う際は、立地条件、交通の便、土地の面積や形状、建築規制の有無、周囲の環境状態など多様な客観的事実を調査する必要がある。そして、関係人から質問を受けた場合には、それら事実について真摯に説明報告をする職務上の義務がある。一定の事実を知りながら、それについての質問にも答えずに土地を売却することは、後に購入者との間で紛争を生じる可能性があるからである。

 にもかかわらず、本条例改正案は、「その土地は、かつて行政により同和地区とされていたか否か」と関係者から質問をされた場合に、事実を知っていても回答してはならないと定めるのである。何ら差別的意識がなくても、その発言や報告自体が禁止されてしまい、しかも勧告・公表などの不利益処分や、資料提出命令などを課されてしまうのである。

これでは、不動産業者や法律資格者の本来適正なはずの業務に重大な支障をきたしてしまい、ひいては適正な土地取引や法律関連業務の遂行自体が妨げられてしまう。

3 本条例案の問題点(2)―――およそ差別につながらない行為を広汎に規制する

 本条例の目的は、「部落差別事象を引き起こすおそれのある調査、報告等の行為の規制に関し必要な事項を定めることにより、部落差別事象の発生を防止し、もつて府民の基本的人権の擁護に資する。」とされている。

 しかし、今回の条例改正は、同和地区があるかないか」の調査あるいは報告をするだけでも、不利益処分の対象とするものである。詳細な調査に基づく報告だけでなく、「あの地域は、かつて同和地区だったらしい。」と伝え聞いた事実を述べるだけでも、「報告をした」と認定されてしまい、不利益処分の対象となる。不明確な文言によって、極めて広汎な行為が規制対象となってしまうのである。その対象には、何ら部落差別につながらない広汎な行為が含まれてしまう。

たとえば、関係先(土地の購入予定者など)からの質問にこたえて、「たしかに、以前は行政が指定する同和地区に含まれていましたが、今は同和地区という指定そのものが法律上廃止されており、周辺住民との交流も進んでいます。ですから、安心して購入してください。」と述べること自体も、本条例の規制対象となってしまうのである。つまり、部落差別の解消を願いつつ理解を求めようとする発言までも、本条例で禁止されてしまう。

 そもそも、同和地区があるかないか」の調査や報告自体は、何ら部落差別につながらない。なぜなら、その調査・報告は、すなわち「かつて行政により同和地区と指定されていたか否かという、過去の客観的事実・歴史的事実」を調べたり報告したりするだけのことである。それを行う者が差別的意図をもっているか否かとは無関係である。

 ましてや、同和地区の有無というのは、その報告・調査を行う者が決めることではないし、その者が差別状態を作りだす訳ではない。むしろ、大阪府など地方公共団体自身が、「ここは同和地区である」と指定していたのであり、それは過去に存在した客観的・歴史的事実にすぎない。その事実を調査・報告すること自体は、その者が差別意識を有していることの裏付けとはならないし、その行為が直ちに「差別を引き起こす」とか「差別を助長する」などと断ずることはできない

4 本条例案の問題点(3)―――「同和地区」という呼称には、もはや法律上の根拠がない

前述のとおり、今では「同和行政」や「同和地区」という用語は法律上の根拠が存在しない。

 にもかかわらず、本条例はあらためて「同和地区」についての調査・報告を禁止するという形で、「同和地区」という言葉を持ち出し、規制を強化しようとしている。現在も「同和地区」と指定された地域が厳然と存在するかのように規定しているのである。(本来であれば「旧同和地区」とでも表記すべきであるところを、現在も「同和地区」と表記していること自体に問題がある。)

 われわれは、部落差別を含めた差別解消と人権擁護を求めているが、そのためには部落差別や同和問題を特別視したり、「同和地区」という指定や名称そのものを温存・固定化することがあってはならないと考える。いま求められるのは、かつて同和地区とされていた地域と、それ以外の地域とが融合し、地域住民が相互に交流と理解を深めることである。

部落問題の解決は、大阪府民の自由な意見交換と良識によってこそ解消される。

 今回の条例改正案は、これに逆行するものであり、差別の解消につながらないどころか、かえって差別をつくり出す危険性があると考える。

5 本条例案の問題点(4)―――解放同盟など運動団体の介入の機会を広げる

 そもそも、本条例が予想する「調査・報告により差別が助長される」とは、どのような場面を想定しているのか、根本的な疑問が拭えない。

 たとえば不動産業者の営業所を訪れた土地購入希望者から「ここは、かつて行政が同和地区と指定していた地域ですか」と質問されて、不動産業者が回答したとする。この場合に、それを条例違反として通告できるのは、その質問をした本人だけである。要するに、わざと条例違反の報告をさせるという、「罠にはめて陥れる行為」と「密告」によって条例違反が通告されることになる。およそ正常な不動産取引の場を想定した規制とはいえない。

 本条例改正案は、部落解放同盟の強い申し入れに応じる形で提案されている。そして大阪府自体も、部落解放同盟の方針に追従する形で、敢えて「同和地区」という呼称を残存させる意思を表明している。

周知のように、部落解放同盟に対しては「確認・糾弾」の名による暴力行為を繰り返し、同和予算を食い物にする不当な行政介入を繰り返してきた団体であるとの厳しい批判やこれを認定したいくつもの裁判例が存在する。その部落解放同盟の介入に対して毅然とした態度を取るどころか、その圧力に屈して追従する姿勢を示している大阪府が今回のような条例改正を企てることは、部落解放同盟に新たな「確認・糾弾」の口実を与えて、その影響力を拡大させる効果を与える結果をもたらすことは明白である。

その点からも、本条例改正案は極めて危険であり、強く反対する。

以上のとおりであるから、大阪府議会各会派におかれては、上記条例改正案に反対していただき、廃案にするか否決していただくよう強く求める次第である。

以 上

「部落差別調査規制条例(興信所条例)」改正案について

大阪府人権室への申入れにより明らかになった問題点

                                                      2011年3月7日

自由法曹団 大阪支部

支部長   伊  賀    興  一

自由法曹団大阪支部は、2011年3月4日に大阪府人権室に対して、「部落差別調査規制条例(興信所条例)」改正案に反対してその撤回を求める申入れ活動をした。その際、人権室側の発言により、次の問題点が明らかになった。

1 弁護士、司法書士、公認会計士なども規制対象となるとしながら意見交換も行っていないを確認

自由法曹団大阪支部が指摘したとおり、本条例規制案は不動産取引に関与するものが広く規制対象となる。人権室もこれを認め、弁護士、司法書士、公認会計士などが対象となることを認めた。

にもかかわらず、規制を新たに行うとする当事者団体との意見交換も行わず、議論も不十分なままである。

こうした各種団体の意見交換は、その業界に関する法規制との整合性の問題も生じうる問題があり、そうした問題を事前に検討するうえで必要不可欠である。本条例の可決を急ぐべきではない。

2 国土交通省の「通知」と同じ趣旨である、といいながら、広汎な不利益処分を課す問題点

府人権室は、本条例改正案は、国土交通省通達(平成13年1月6日付=末尾添付)と同じ趣旨による条例であると明言した。同通達は、宅地建物取引業者に対して、社会的責任を土台に、人権問題に対する意識向上を呼びかけて啓発や教育の重要性を述べる内容であり、不利益制裁を伴う行政規制を課す対象とはしていない。

その対象行為や差別に当たるか否かの判断基準などの十分な検討なしに条例を制定することには質的に異なり、飛躍がある。

本条例は、国土交通省通達と同趣旨といいながら、同通達とは異なり自発的努力の範囲を超えて行政権による無限定な不利益制裁まで規定するものである。

この点でも、本条例改正案は国の施策とも整合性がないことが明らかになった。

3 拙速な条例成立ではなく、府民の議論を

 すでに自由法曹団大阪支部は、府知事・府議会各会派あての要請書により本条例改正案の問題点を指摘したが、人権室への申入れにより改めて上記の事実が明らかになった。

問題点をかかえた条例案を拙速に成立させるのではなく、十分な議論が尽くされるよう強く求めるものである。

以上

「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方について」 (抜粋)

(平成13年1月6日 国土交通省総合政策局不動産業課長通達)

  宅地建物取引業者の社会的責務に関する意識の向上について

宅地建物取引業務に係る人権問題の最近の状況を見ると、一部において同和地区に関する問い合わせ、差別意識を助長するような広告、賃貸住宅の媒介業務に係る不当な入居差別等の事象が発生している。

宅地建物取引業は、住生活の向上等に寄与するという重要な社会的責務を担っており、また、人権問題の早期解決は国民的課題であるので、基本的人権の尊重、特にあらゆる差別の解消に関する教育・啓発が重要であることにかんがみ、同和地区、在日外国人、障害者、高齢者等をめぐる人権問題に対する意識の向上を図るため、取引主任者等の従事者に対する講習等を通じて人権に関する教育・啓発活動のより一層の推進を図るとともに、宅地建物取引業者に対する周知徹底及び指導を行う必要がある。